学校長  野村 春路 
  新入生のみなさん、ご入学おめでとう。ようこそ、芝浦工業大学柏中学高等学校へ。今日から高等学校284名、中学校199名のみなさんが、芝浦工業大学柏高等学校と柏中学校の生徒となりました。
 さて今日みなさんの入学にあたって、近い将来の社会について考えておきたいと思います。この近未来について、このところ話題になっているテーマの一つは、人工知能(AI)です。この人工知能の技術革新によって、人間生活全般における効率化が進みます。例えば、自動車の自動運転、あるいは言葉の翻訳機械、スポーツの審判も人工知能で判定するようになります。もうすぐ様々な場面で高機能なロボットが活動していることを見かけるようにもなるでしょう。2030年ごろには、人工知能が人間同等の能力を持つと考えられていますので、職業・仕事においては、すでにある職業のある業種は大幅に削減され、他方新たな仕事が生まれてくると予想されています。
 このような未来予測の中、現在人工知能の開発が集中して行われています。その中の一つとして「東ロボくん」計画というものがあります。これは国立情報学研究所が中心となって、「ロボットは東大に合格できるか」ということを課題として進められた人工知能の研究・開発プロジェクトです。この研究は2011年から始まり順調に開発が進み、2015年6月には、高3のマーク模試において、偏差値57.8という成績を収め、これは私立大学の441大学1055学部、国公立大学の33大学39学部で合格可能性80%以上に相当するレベルになりました。ところがこの先から研究は行き詰まり、昨年11月には東大合格は不可能であると発表しました。その理由をいくつか挙げるなら、「東ロボくん」は、まず英語も国語も文脈理解が苦手で、単語の穴埋めは完璧にできますが、実は文章の意味はわかっていない。数学においては、計算能力は抜群ながら、問題文を計算式にするのに一苦労する。さらに人間にとっては当たり前の前提条件がわからない。例えば、歴史の問題において「織田信長は楽市楽座を開きましたが、市の日はどんな天気だと人々は喜んだでしょう。@晴れ、Aくもり、B雨」が出されたとすると、お天気については教科書や辞書に書いていないので、答えられない、ということが起こりました。「東ロボくん」の研究者によると、「この問題点を克服するには、“人間としての常識”のデータや膨大な量の複数の文のセットを用意せねばならず、コストと労力がかかりすぎ、現段階ではその方向で進化させることは物理的に不可能である。」と言っています。文の意味を考える、文脈をとらえる、こうした作業はいまのところ人間が得意な点です。
 その他にも、人工知能が苦手で、人間が優位な点に状況判断があります。例えば、大きな段ボールを胸にかかえている人が、これから部屋に入ろうとして扉の前に立っている。閉まっている扉を開けて部屋に入らなければいけない。このような場面、このような人を見た時に、何をしてあげるべきか。ロボットに、その人の先に立って扉を開けるという状況判断のプログラムを入力するのは、先ほどの「東ロボくん」と同様難しいのです。状況判断のうちでも、他の人の気持ちに寄り添って、ある場面においてその人にとって最適な何かをしてあげるということは、人工知能の面からみれば高度な判断力を必要としますが、実は多くの人間にとっては当たり前にできる場合が多いのです。人間のすばらしい点は、経験や学習を通じて得た大量の情報を一瞬にして分析して状況判断ができることです。そしてこの人間にとって優位な資質を伸ばすためには、いろいろな経験をし、周囲のできごとに気づき、考えることが求められるのです。これからの時代は「気づき、考える」人間が、ますます重要となって来るでしょう。
 さてこの先ですが、「気づき、考える」人間になるために、みなさんはこれからの中学・高校生活において、何をなすべきか。ここではこれ以上詳しく述べることができませんが、要点は2つ。一つは先ほど述べたとおり、多くの経験をすること、もう一つは、「差異=違い」を意識することです。あらゆる現象は、すべて一回性、個別です。でき事は、2回同じ様態にはなりません。現象には常に差異があるのですが、人間はこれを大きくまとめ、この差異を省略、無視し、効率よく無駄に考えないように生きているのです。ですから、「気づく」とは「差異=違いに気づく」ということなのです。
 みなさん一人一人が、未来を変える大きな力を持っています。その力を伸ばすために、みなさんの入学にあたり、「気づく」こと、「考える」ことがこれから先に大切になってくることについてお話しました。