巻頭

 グローバリゼーションへの対応を考える
学校長  菅沢  茂
 東京大学教養学部外国人英語コースで年々入学辞退者が増え、2014年10月には約7割に上ったという。現文科相も、このままでは日本の大学はじり貧になると思うと記者会見で語り、日本の最難関校が外国の留学生の滑り止めにされた現状を憂いている。大学もグローバリゼーションの波に洗われ、学生はその国の言語さえ使用できれば世界中の大学の中から自分の行きたい大学を選んで留学する時代となっている。政治・経済はもとより様々な文化が国境を越えて緊密に連携融合する社会が到来したというべきだろう。このようなとき、日本の高校生は今後グローバリゼーションの動向にどのように対応してゆけばよいのか。以下に著名な二人の所論を抜粋してご紹介したい。生徒・保護者・教職員の参考に供し、芝柏生の将来の進路設計に役立ててほしいと思う。
 青色発光ダイオードの開発で昨年ノーベル物理学賞を受賞した中村修二氏は、AERAで次のように語っている。
「日本人は非常にまじめです。ウソをつかない。世界的に見ても素晴らしいと思います。注文した機械を中小企業が納期通りにつくってくれるなんて日本くらいですから。問題は、グローバリゼーションに対応できていないことです。ノーベル賞を取る日本人は少なくありません。いい発明をするし、いいモノをつくれる。でも、それを世界によう売らん。世界標準から外れ、日本国内でしか売れなくなっていくことも多い。携帯電話や薄型テレビがいい例です。この状況を変え、世界標準を多く勝ち取るには、まず多くの人がネイティブと同じくらいに英語を話せるようにならないといけません。英語を日本の第一言語にするくらいでないと。(中略)シンガポールや香港のめざましい経済発展は、英語教育によるものだと思います。」
 確かに日本の若者が世界標準とともに生活するには、とりあえず英語を公用語又は準公用語に指定することが望ましい、と私は思う。明治期にも一時期井上毅文部大臣がこの点を主張したが、当時の国民感情に馴染まず実現に至らなかった。というより、猛反発をくらいひどい目にあったと聞いている。
 中村氏は続けて、「高校生くらいのうちから、最低でも5年、海外に出るようにすべきです。ずっと日本にいると、有名大学を出て有名企業に入るのがエリートコースだ、と洗脳されてしまいます。米国では優秀な学生は自分でベンチャーを起こしたり、参加したりします。5年も米国にいれば考え方はがらっと変わりますよ。自分で事業を起こす人こそがエリートだ、と。若い人たちは、ぜひ覚醒してほしい。」と提言している。国策では2〜3週間から半年、1年間程度の留学振興策にとどまっているし、それが限界だろう。しかも、現在アメリカの学費は驚くほど高くなってしまった。一般庶民には高嶺の花である。そこでわれわれ庶民は、今後子供や孫を英語に限らずドイツ語やフランス語、スペイン語にも目を向けさせて、小学生や中学生のころから訓練して堪能にさせ、学費もごく安く環境政策も確かなヨーロッパの大学に若者を数多く送り出すべきではないか、と私は考えている。
 次に、安田教育研究所が発行する『月刊ビジョナリー』の昨年12月号の対談記事の中で、福原正大氏の注目すべき見解を見つけた。同氏は、慶應義塾高校、慶應義塾大学経済学部を卒業後、欧州経営大学院(INSEAD)でMBAを、フランスのグランゼコールHECで国際金融修士を取得、筑波大学大学院で経営学博士を取得した後、東京銀行(当時)に入行、2000年には世界最大の資産運用会社バークレイズ・グローバル・インベスターズ株式会社に入社し、2005年には最年少でManaging Director になった。これら多彩な経験を踏まえ、2010年に中高生向けに海外の大学を出て世界で活躍することのできるグローバルリーダーの育成を目指すIGS(Institution for a Global Society)を設立した。関係の著作も多く刊行している。
 今なぜグローバル人材なのか、という問いに対して同氏は、「最大の要因はグローバル化やIT化が進む中で、今のままの教育ではこうした時代に活躍できる人材が十分に育たない、結果として日本の政治・安全保障情勢、経済が厳しくなることだと思います。」と答えている。世界における日本の経済規模が今後、急速に小さくなる。日本は第二次世界大戦後、世界ではほとんどシェアのなかった状態から90年代前半には20%近くを占めるようになった。ところが今は7%(2011年)で、今後4%、3%になっていく。また、少子化が進むと同時に、日本の債務が大きくなり政府が財政支出を教育に向けるのが困難になる。さらに深刻なのは日本の人口が1億人を切って世界のシェアが獲れなくなり、世界は日本に注目しなくなる。こうした意味においても日本は人材が世界に出ていかなければならない。このような日本特有の問題があると同氏は語り、以下のような改善策を述べている。
◇現在の仕事の大半もコンピュータに置き換わる可能性があり、教育が今後、考えなくてはいけないのは「ITに置き換われない力」をつけること。例えばアメリカでは今、日本と逆に美術や音楽教育に力を入れ、数学と組み合わせた授業の試みが進められている。感性・直感力と最低限の数学の能力とプログラミング能力があれば、新しいことはできると考えているからだ。
◇日本の場合、あまりにも基礎的なインプットの量が多すぎる。答えがない問題があることを早い段階でたくさん示して知らせることが大切で、そのために必要なのが思考力、疑う力だ。進学校で大学受験への対応が必要になればなるほど、思考力部分が弱くなる。哲学教育、宗教教育をうまく使って「疑う力」をつけさせてほしい。
◇生徒たちに最も有益なのは、間違いなくTOEFL iBTだ。生徒が交換留学で進みたい大学のほとんどがアメリカの大学だからだ。SGUに選ばれた大学は海外に留学生を送り出すが、その留学先が受け入れてくれるのがTOEFL iBTとIELTSしかない。中学高校から準備を始めてほしい。