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 食の安全と学習意欲
学校長  菅沢  茂
 「衣食足りて礼節を知る」という。礼節を自己規範と考えれば、まさに学習意欲、学習習慣を形成する上で服装や食事など生活環境の保全は重要である。以下ではとくに、われわれの「食」についてその安全策の一端を確認し、生徒の健康と学習意欲向上の一助にしたいと考える。
 環境問題や食の安全について、例えばレーチェル・カーソン『沈黙の春』(1962年アメリカで刊行、化学薬品や殺虫剤がもたらした被害を告発)や有吉佐和子『複合汚染(正・続)』(正編は1975年刊行、毒性物質の複合がもたらす環境汚染の実態を告発)など、世に警鐘を鳴らした名著がある。また、近年では『あぶないコンビニ食(正・続)』の中で、著者の山田博士氏が涙ぐましいほどの食品調査を行ない、添加物などの結果を企業や外食店の実名入りで公表している。いわゆる「コンビニ食」が若者の明るい未来を奪ってはならないとする大義に基づく行動だといえよう。
 ところが、最近もっと大きな地球規模の食問題を告発するフランスの映画があったので、上映カタログを基にしてここにご紹介したい。それは、昨年3月から日本でも公開されている『世界が食べられなくなる日』(2012年/フランス/118分、原題:Tous Cobayes?(すべてモルモット?))である。以下に、予告編で紹介されたあらすじを要約する。
 “『未来の食卓』のジャン=ポール・ジョー監督が、遺伝子組み換え(GM)作物と原発の危険性に迫るドキュメンタリー。GMトウモロコシを2年間ラットに与え続けた研究実験に密着し、さらに、福島第一原発事故が周辺農家に与えた影響を描き、原発と遺伝子組み換えという2つの技術の関係を明らかにしていく。”
 現在、市場に流通しているGM食品の安全基準は、ラットにGM作物を3か月間与え続けても問題がないという実験結果をもとにしている。しかしこの映画では、2009年にフランスで分子生物学者セラリーニ教授によって極秘に開始された2年間にわたる長期実験を撮影して公開している。ラットのエサにGMトウモロコシ、農薬(ラウンドアップ)を組み合わせて混ぜ、ラットの寿命に相当する2年間与えた結果、腫瘍の発生率、死亡率の上昇がみられた。21か月目にはメスの80%に乳腺腫瘍が発生したという。
 実験に使用されたNK603(遺伝子組み換え除草剤耐性トウモロコシ)は、モンサント社のGMトウモロコシの品種で、同社の除草剤ラウンドアップに耐性を持つよう遺伝子組み換え操作されている。日本では2004年11月に栽培・食用・飼料用として認可されている。一方、ラウンドアップは、モンサント社の主力の売り上げを誇る除草剤グリサホートの商品名で、世界でもっとも売れた除草剤だという。
 フランスではGM食品(農産物と加工食品)と飼料にも、EU基準に基づいた厳しい食品表示が義務付けられているのに対し、日本ではGM食品(同)に表示義務が課せられているが、飼料には表示義務はない。しかも、加工食品について表示義務があるのは、その農産物が主な原材料(重量に占める割合の高い上位3位まで)で、かつ原材料の重量に占める割合が5%以上の場合のみである。ヨーロッパに比べて、あまりにも甘い基準というべきである。
 また、日本はGM食品の輸入大国である。トウモロコシの最大の輸入国で、その量は年間約1,600万トンで、そのうち約9割がアメリカ産で、その88%がGM品種だ(2012年米国農務省調べ)という。それが主に家畜の飼料をはじめ、食用油やコーンスターチなど加工食品の原料に使われている。さらに、大豆も年間約300万トン輸入されており、その約7割がアメリカ産で、その93%がGM品種だ(同調べ)という。大豆加工食品の代表である醤油にも遺伝子組み換えの表示義務はない。このことから、われわれ日本人は実質的に相当な量のGM作物を日々摂取しているということが分かる。
 さて、本作品でGM作物の影響と同時に描かれるのが「原発がある風景」である。世界第2位の原発保有数28基が稼働中で常にリスクと隣り合わせのフランスと、福島第一原発事故以降の日本に住む農家がどのような影響を受けたのかについて、食の重要性を訴え続けるジョー監督がカメラを向けている。同監督は、インタビューに答えて次のように語った。
 「環境問題に関心を持つようになったのは12年前からですが、その頃からGM作物という自分の土地にできない作物のタネをわざわざ買うことに疑問を感じていました。セラリーニ教授の実験について聞いたのは『セヴァンの地球のなおし方』の撮影中でした。これまでモンサント社GM作物や除草剤を3か月のラットの実験で認可してきたのですが、今回はラットの寿命である2年という年月をかけた世界初の画期的な試みだったのです。元々は、その実験に焦点を絞るつもりで始めた企画でした。しかし撮影の最中に、福島第一原発事故という耐え難い出来事が起こってしまったので、必然的に原子力を同じ作品に取り入れることになったのです。「遺伝子組み換え」と「原子力」という二つのテクノロジーには、大きな共通点があります。まずひとつ目は、取り返しがつかないということ。一度汚染されたら元に戻らないというのは、生命の歴史の中でも初めてのことです。もうひとつは、世界中にすでに存在しているということです。さらに、体内に蓄積されやすいこと。モンサント社はGM作物を特許化し、本来であれば自然農業が人類にもたらす恩恵を奪い取っている代償を払うべきなのに、これは犯罪です。
 カタログの最後のページには、「生活クラブ」「パルシステム」「大地を守る会」「ハーモニック・トラスト」など、生産地や生産者を特定した安全な食材・食品を宅配する専門業者の広告が掲載されている。一般の市場よりは若干価格が高いかもしれないが、病気の予防や子どもの健全な成長を考えたとき、むしろ安上がりといえなくもない。まだの方は、ぜひご一考をお願いしたい。