■巻頭■

 幸福度指数調査
高校副校長  久保田 剛司 
 先月下旬、高校2年生のオーストラリア研修が無事に終了しました。今年から、従来のファームステイに代えて、世界で3番目に大きい砂の島であるモートン島での海洋・地質環境学習や野生イルカの餌づけ体験、名門クィーンズランド大学での模擬講義やキャンパスツアー等新しいプログラムも加わり、盛り沢山な研修となりました。中でも今年で8回目となる姉妹校リディーマー・ルーセラン・カレッジでの“シバカシ・デイ”も、例年にも況して充実したひと時となりました。リディーマーの最上級生が、「ホスピタリティ」の授業の一環として用意してくださる美味しいステーキバーガー・ランチをはじめ、文化交流・スポーツ交流も年々充実し、昨年からお互いの文化を紹介し合う交流が、また今年からは事前のペンパル交流も始まりました。
 その“シバカシ・デイ”冒頭の挨拶で私が今年取り上げた話題は、今年5月OECD(経済協力開発機構)が発表した幸福度指数(Better Life Index) 調査についてです。この調査は昨年から始まり、住宅(Housing)・収入(Income)・環境(Environment)・健康(Health)など11項目についての客観的データと主観的データを併せて幸福度を表すものです。日本は、安全(Safety)では世界1位、教育(Education)では2位の高評価を得ましたが、生活満足度(Life Satisfaction)では27位、仕事と生活の両立(Work-Life Balance)では34位とほぼ最下位に近く、総合点では昨年より2つ順位を落として調査対象国36ヶ国中21位に留まりました。一方、1位はオーストラリア、しかも2年続けて堂々の総合1位です。収入の評価がやや低いものの、他の10項目は押し並べて評価が高く、全体が高いレベルで揃っているのが総合1位の理由でしょう。この結果について感想を求められたあるオーストラリア人は、「世界一労働時間が短く、レジャーの時間が極端に長いから」とジョークで答えたそうですが、「自分がそう思っているかどうか」という自己肯定感がオーストラリアは高く、日本は相当低いのも差のついた理由と分析されています。
 確かに日本は、長引く経済不況に加えて、昨年の大震災と甚大な津波被害、そして放射性物質汚染が大きな問題となっており、夢や希望、幸福感を持ち難い状況にあります。また、仕事と生活の両立が最下位に近いのも、日本人の一般的な働き方からすれば仕方のない評価かも知れません。しかし、世界一の長寿国であるにも拘らず健康の評価が低かったり、他国に比べて生活水準は決して低くないのに生活満足度が極端に低いのは何故でしょうか。「国民総幸福量」で知られるブータンは今回の調査対象外でしたが、96.7%の国民が幸福と回答した(2005年)独自調査の内容はOECDのそれと重なる部分が大きく、「自分がそう思っている」自己肯定感が高い点が特徴的です。最近では、年収の何倍もの高価な買い物に走る若者世代の増加が問題視されてはいますが、ブータンの人々は「自分は自分」「分相応」「足るを知る」という意識が強い点も見逃せません。さて、あなたは自分の幸福度をどう判断しますか。

 マレーシア研修の目的について
中学副校長  野村 春路 
 柏中学校では3年次にマレーシア研修旅行を実施している。本校が海外研修の相手先として、マレーシアを選んだ理由は、芝浦工業大学がマレーシアからの学生を受け入れるプロジェクトの中心校であったため、マレーシアとの間にパイプがあったからである。実際柏中高からも数学・物理の教員が、日本の理工系大学へ進学するための事前教育プログラムに協力する目的で、クアラルンプールに派遣されていた時期があった。2001年の第1回研修から今年まで、2003年のイラク問題・SARS、2009年の新型インフルエンザによる2回の中止を経て、今年2012年は10回目のマレーシア研修ということになった。
 マレーシアは多民族国家であり、マレー系(約65%)、中華系(約25%)、インド系(約8%)の主に3つのグループで構成されている。マレー系の人々はほとんどがイスラム教を信仰しており、例えば交流校のプトラジャヤ第8区第1学校の生徒の97%はマレー系であるため、本校との2日間の交流の際午後2時前後に、学校内のスラウ(礼拝所)でメッカへの礼拝をし、本校の中学生はそれを静かに見学するという貴重な異文化体験をしている。
 さて毎年中学3年生対象にマレーシア研修の事前学習として、マレーシアを研究フィールドとしている大学の先生に講演をお願いしている。今年は帝京大学教授の白坂蕃先生にお話しをしていただいた。この講演の中で、「マレーシアの人が日本に関心を持っている理由は何か?」という発問を先生は行った。生徒の幾人かは、おそらく地理の授業で教わった「ルック・イースト政策」を思い出し、経済発展をしている日本に対し憧れを持って見ているから、日本に関心があると解答をしたでありましょう。これは正解の一つでしょうが、白坂先生の答えは、「日本は太平洋戦争中、マレーシアを占領した。自国を占領した人のことは忘れないからである。」というものであった。これは抜け落ちてしまいがちな大切な視点である。
 なぜなら、戦後日本が東南アジアと外交関係を再開する際、戦争の謝罪や冷戦構造における政治的立場にはあまり触れず、経済援助に軸足を移して関係を修復したという歴史が流れているからである。この流れの起点は1955年のバンドンAA会議であったと考えられるが、いずれにしろこの時より、日本人にとって東南アジアは、経済上の観点を第一義として非常に平板な捉え方になって行ったのではないか。本来マレーシアが持っている多様性をあまり見ることなく、経済優先の交流になっていたのではないか。マレーシアの良さは、その多様性にあるのであって、多様なものが共存していること、共存して行こうとしていることを、日本に暮らす生徒に伝えることが大切であると思う。この点なかなかうまく伝えられないこともあるのだが、中学生のうちにこの多様性に触れてもらうことが、マレーシア研修の重要な目的である。